技術士二次試験対策 1800字の解答例

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技術士の二次試験では必須科目Ⅰと選択科目Ⅲで1800字の文章を書かないといけません。ここでは本番を想定した記載例をご紹介します。

技術士二次試験の試験内容

技術士二次試験で出題される科目と試験内容は以下の通りです。

試験科目 試験方式 文字数 試験時間 配点
必須科目Ⅰ 「技術部門」全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力に関するもの 600字詰用紙3枚=1800字 2時間 40点満点
選択科目Ⅱ 「選択科目」についての専門知識に関するもの 600字詰用紙1枚=600字 3時間30分 10点満点
「選択科目」についての応用能力に関するもの 600字詰用紙2枚=1200字 20点満点
選択科目Ⅲ 「選択科目」についての問題解決能力及び課題遂行能力に関するもの 600字詰用紙3枚=1800字 30点満点

今回は1800字ものボリュームがある文章を、本番でどう書くかについて対処方法を紹介します。私は機械設計部門で受験するため、テーマは次の4つを考えました。

①ライフサイクルエンジニアリング
②カーボンニュートラル
③プロジェクトマネジメント
④システムインテグレーション

記載例① ライフサイクルエンジニアリング

1.概要
製品ライフサイクル全体を対象として、環境調和性、コスト、効率などを最適化、合理化することを目的とした製品ライフサイクル自体のさまざまな課題を解決することである。

2.課題
現代のものづくりにおいて、物質やエネルギー資源など消費資源を最小化しながら、社会が必要となる機能を提供、維持していくことが求められる。つまり、環境問題に対応した持続可能性を達成する必要がある。そのための課題を3つにまとめる。

2-1 ものからサービスを提供するビジネス変革:ものを売るビジネスからサービス提供を中心としたビジネス設計に変革するための経営戦略、経営管理が課題となる。

2-2 循環型ライフサイクル全体の設計:製品の寿命、メンテナンス性、リユース性、リサイクル性などは製品の設計時点でほとんど決まってしまう。各ライフサイクルプロセスを設計することが求められ、製造後から廃棄までのすべてのライフサイクルを設計し管理するという視点で実装していくことが課題である。

2-3 循環型製品のための要素技術高度化:分解性設計やリサイクル性設計など従来の環境調和型設計技術、メンテナンス技術や使用済み製品の循環や環境負荷低減を実現するための技術を高度化させることが課題である。

3.対策
3-1 サービス提供ビジネスへの転換:個々のライフサイクルプロセスを有機的につなぐ技術を用いて工学的に扱うことや、サービスを工学的にモデル化することで、対象とする製品やライフサイクルにとって適切なビジネス戦略を策定する。製品販売中心から、レンタルやリースに転換し、製品の使用、メンテナンス、回収段階でユーザー支援を行うサービス提供をビジネスの中心とすることで顧客生涯価値を高めることができる。

3-2 環境に配慮した設計:リデュース、リユース、リサイクルの3R推進、家電リサイクル法など法規制や消費者の環境意識の高まりで多くの製品がカスケード型で循環している。しかし、消費者の行動によって進められ、製造企業が直接影響しコントロールしているものではない。そのため設計上流段階で、材料の選定から製品寿命の最適化、製品の分解しやすさなど環境に配慮した設計を行う。

3-3 循環型製品の要素技術高度化:材料技術として鉛フリーやリサイクル可能材料、リサイクル材の活用技術である。メンテナンス要素はセンサ技術や機械学習を活用した寿命予測、メンテナンス技術の高度化や自動化である。ほかにも省エネルギー技術やエネルギー回収技術が挙げられる。

4.新たなリスク
製品の寿命は故障や劣化といった物理寿命と、動作はするものの機能やデザインが古くなり価値を失う価値寿命があるが、現代の組立型製品の多くでは価値寿命が支配的であり、大半は価値寿命の理由で廃棄されている。そのためライフサイクル設計により物理寿命を向上したことが、かえって価値寿命の低下につながることや新製品開発サイクルを長期化させることにつながってしまうと考えられる。そのため価値寿命を維持し向上させながら、物理寿命まで製品だけでなく部品や素材を使い尽くすことが必要である。

5.解決策
価値寿命を維持するためには、ライフサイクルエンジニアリングの対象を単一の製品と限定せず、顧客満足度を高めるためのサービス提供を充実させ、いかに資源やエネルギーを無駄に消費しないようにするかを考える。具体的には従来のようにハードウェアを販売する形態ではなく、部分的にソフトウェア化しオンライン販売の実施、製品自体はレンタルに置き換えるといった多様な機能実現の方法を考える。機能自体を対象とする場合も、単一の製品のみで考えるのではなく、製品をシリーズ化や次世代化することを視野に入れ、シリーズ間や世代間での設計情報や部品の共通化を検討することが有効である。

記載例② カーボンニュートラル

1.概要
2015年に開催されたCOP21にて採択されたパリ協定が本格実施の段階に入り、各国政府はカーボンニュートラルの実現を表明している。我が国では2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言している。製造業を中心にグローバルで活動する企業はサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを行っている。

2.課題
2.1電力部門の脱炭素化
現在の技術水準を前提とすれば、すべての電力需要を100%単一種類の電源で賄うことは一般的に困難で、再生可能エネルギーは最大限導入しつつ、脱炭素エネルギーリソースの開拓や確保が必要である。

2.2デジタルインフラの強化
グリーン成長戦略を支えていくためには、エネルギーの需給構造の実現だけでなく、電力ネットワークのデジタル制御も課題となる。そのために強靱なデジタルインフラが必要であり、そのために半導体・情報通信産業を成長分野として育成していく必要がある。これには電力部門、輸送部門、業務・家庭部門の切り口がある。

2.3革新的技術の社会実装
脱炭素化エネルギーの革新的技術が確立されても、コスト面で競争力が低いと社会実装は困難である。そのため、カーボンニュートラル推進による経済効果を見込める施策や戦略が必要となる。

3.対策
3.1新エネルギー産業の創出
火力発電については、必要最小限使わざるを得ないが、CO2 の回収を前提として利用するための技術を確立し、適地を開発し併せてコストを低減していく。また、あらたに水素産業、カーボンリサイクル産業や燃料アンモニア産業を創出するなど、省エネ関連産業を成長分野として育成していくため、研究開発・人材育成を推進する。

3.2次世代電力ビジネス
再生可能エネルギーを最大限導入し、活用するためにもデジタル制御を主体としたビジネスの推進や、それを可能にするグリッドの構築につながる次世代電力マネジメント産業を育成する。例えば、系統運用の高度化を図るスマートグリッドや、天候により出力が変動する太陽光・風力の需給調整、インフラの保守・点検作業を、デジタル技術で対応していく。輸送部門では、クルマ、ドローン、航空機、鉄道が自動運行されることで利便性を高めるだけでなく、エネルギー需要の効率化にもつながる。業務・家庭部門では、再生可能エネルギーと蓄電池をエネルギーマネジメントシステムで組み合わせて最適制御するスマートハウスにより、快適な暮らしが実現するとともに、エネルギーの有効利用も図られることとなる。

3.3官民による取組みの強化
民間投資を後押しし、規制改革・標準化を進める。例えば水素ステーションに関する規制改革、再生可能エネルギーが優先して入るような系統運用ルールの見直し、自動車の電動化推進のための燃費規制の活用やCO2を吸収して造るコンクリートの公共調達について検討し、需要の創出と価格の低減を行う。

4.新たなリスク
さまざま企業がカーボンニュートラルの対応を求められる中で、製造工程だけでなくサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル推進がポイントである。しかし、製品の輸配送に関わるトラックや飛行機、船舶などによるCO2排出が含まれ、多くの企業が関与するため、マネジメントが課題である。

5.解決策
まずは自社以外の排出量データを可能な限り可視化するところから始めなければならない。それには各企業が自社のCO2排出量を正確に測定、管理し、必要に応じて情報共有し合う仕組みづくりが必要である。さらに業界全体で、時には他業界と連携して取り組む必要がある。例えば、製品輸送は、同業の複数社による共同配送を行う。高まる脱炭素への社会的要請を業界全体の課題と捉えて、連携し合うことでカーボンニュートラルの目標達成を図る。

記載例③ プロジェクトマネジメント

1.概要
新商品開発、ITプログラム開発、建設工事など、目的を達成するための期間が定められている業務において、目的を達成するための活動を推進しコントロールするマネジメントである。次のプロジェクトに活かすために経験や知識を残すことも重要なプロセスである。

2.課題
2.1原価企画の定義
製品の企画・開発にあたって、顧客ニーズに適合する品質・価格・信頼性・開発期間などの目標を設定し、すべての活動を対象として目標の達成を図ることと利益確保の両立が課題となる。

2.2スケジュール管理
マスタースケジュールを設定し、プログラムのマイルストーンを達成させる。開発チェックポイントの中で、設計進捗とともに設計の完成度を確認することが重要である。対人関係を良好とするコミュニケーションを含めた管理を踏まえて設計負荷の増大や、リードタイム不足とならないように管理することが課題となる。

2.3形態管理
形態管理プロセスにおいて技術データの蓄積と管理が課題となる。特に形態変更と差異の管理はトレーサビリティの観点で重要な要件となっている。

3.対策
3.1 EVMの活用
プロジェクトの進捗管理手法として、アーンドバリューマネジメント(EVM)がある。プロジェクトの進捗を実績コストと作業の着手・完了によって管理し、コスト生産性、スケジュール生産性の二面で把握、評価する。出来高も管理することで将来のコストについての見通しも立てられる。EVMはプロジェクト管理ツールを活用すると、工数やワークフロー、予算、原価などの複数の情報を一括で管理することができ生産性の向上につながる。プロジェクト管理ツールは機能やデザイン面も含めて操作性の良いものを選ぶ必要がある。

3.2MCMDの活用
リソースの制約の中で多様なニーズに対応した幅広い製品を設計する手法として、マスカスタマイゼーションモジュラーデザイン(MCMD)がある。MCMDはプラットフォーム化=標準化×共通化×モジュラー化と定義し、①規格化・ルール化してバラつきをおさえて品質を向上させる、②複数製品で技術を共通化することで開発効率向上や量産効果によるコスト削減、③製品全体をモジュラー化し分割することで部分的な完成度を高めることや、分業化、コンカレントエンジニアリングにより開発リードタイム短縮を図る。これにより、多様なバリエーションの商品化を効率的に実現する。

3.3MBSEの活用
対象とするシステムを様々な観点で表現したモデルを用いて、システムの要求分析、設計、検証を効率的に行うアプローチとしてモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)が挙げられる。モデルには、検討対象を文書ではなく視覚的に理解しやすい図表で表現したシステムモデルや、定量的に妥当性/成立性を検証するシミュレーションモデルなどがある。これらを共通言語として用途に応じて使い分けながら活用することで、複数人での協働開発をスムーズに進めることができる。また、作成したモデルは再使用性が高く、他のプロジェクトに活用して開発の効率化を図る。

4.新たなリスク
モデルベース開発の考え方を適用したMBSEの標準開発プロセスはなく、組織ごとのノウハウは公開されていないため、どのプロセスに適用するかを検討せずに実施すると効果は得られない。また、MBSEを取り扱う前提としてSEスキルを向上させておくことや、ドキュメントベースの開発から変化することへの抵抗が挙げられる。

5.解決策
①データを一元的に共有・活用するため、データフォーマットを統一しデータ品質を維持するためのルール設定を行う。②開発業務の分析やMBSEを導入し試行を繰り返して社内標準プロセスの構築を行う。③MBSEの教育活動充実化、プロジェクトの一部から試行し、段階的に適用範囲を広げていくことで物理的・心理的障壁を下げる。

記載例④ システムインテグレーション

1.概要
システムへの要求を満足するために、要求を分解して各要素に割り当て、その要素をシステムとして適切に統合化することである。言わばシステム統合は各コンポーネントを磨き、ブレンドし適合させる作業である。この活動はシステムズエンジニアリングの初期段階から継続的に行われる。

2.課題
2.1すり合わせによるシステム構築
システムインテグレーションは能力、形式知と暗黙知および経験を駆使しながら、要求の分析、機能配分により制約条件をクリアしていくものである。そこで構成要素を有機的に統合し検証してシステム全体として要求を満たすものを作り上げるすり合わせが課題となる。

2.2制約条件の把握
安全性、重量、コスト、環境、スケジュール、信頼性といった制約条件を抜け漏れなく把握することが課題である。統合される構成要素は、構造や熱などの各種力学や理論、制御やサブシステムに関するものであり、航空系ではアビオニクスシステムが挙げられる。

2.3コミュニケーション能力
すり合わせの作業はサブシステム間や組織間でコミュニケーションを通じた情報交換、情報共有、議論、検討、意思決定により行われる。そのため、サブシステムや組織間で垂直的、水平的に円滑な擦り合わせが求められる。そのため品質の高いコミュニケーションを行うことが課題となる。

3.対策
3.1開発検証プロセスV&Vの活用
現在の顧客ニーズの多様化した製造業においては、多分野の工学および理学を統合し、一つの目的を達成するシステムインテグレーションの技術が特に求められている。そこで設計と検証のスパイラルな繰り返しの開発保証プロセス(Validation&Verification)を活用する。個々のサブシステムの機能・性能を組み合わせ、擦り合わせながら妥当性確認を行い、そのあとにシステム全体として検証する。また、開発プロセスをモデル化し、暗黙知の形式知化や意思決定プロセスを導入する。

3.2モジュール型開発の活用
部分最適の集合体を全体に統合し性能を満足させるという思想でモジュール型開発を取り入れる。インターフェース調整の膨大かつ密接な擦り合わせが低減され、顧客要求の多様化にモジュールの組合せで実現することで、低コストで対応可能となる。モジュールの進化が製品の進化に直結し、製品完成後もモジュール改善により全体機能が拡張できるといった顧客へのメリットもある。

3.3実践と学習
経験を積ませるためにインターンシップなど実開発作業への参画が必須である。さらに、世界標準として各国に浸透しているプログラムマネジメントとプロジェクトマネジメント(PMBOK)や、システム工学、設計最適化手法を取り入れながら、システムインテグレーションのうちコミュニケーションに関するノウハウや手法を活用する。

4.新たなリスク
部品点数が多いほど、または出荷数が少ない受注生産に近いほど、製品モジュラー化や標準化には限界があり、完全なモジュール型開発に移行することは不可能である。中途半端なモジュール型開発を進めてしまうとモジュール型のメリットが得られずに冗長な部分の発生やインターフェースの変更が困難、複雑化による不完全な検証といった問題が生じる。

5.解決策
モジュール型開発を織り込んだインテグレーション型開発(ハイブリッド型開発)に移行する。これによりインテグレーション型開発のメリットである、調和させる活動は必然となる。一方で、部品単位であれば開発プロセスのモジュール化志向は可能であり、低コスト・短期間開発を目指す製品(例えば電動垂直離着陸機eVTOL)では既存品の最大活用が求められ、コンポーネントレベルでのモジュール型開発を採用することが大いに期待できる。

実際に受験しました

上記の①~④の構成を暗記し、内容もほとんど丸暗記した状態で、2022年7月に技術士二次試験の機械部門を受験しました。合否結果は11月に発表されますが、手ごたえは50点くらいでした。60点以上が合格ラインなので微妙です。結果と考察はまた別の機会にご報告したいと思います。
再現答案についても別の記事としたいと思います。

 

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