はじめに
「危険物取扱者試験」は、危険物を安全に取り扱うための国家資格試験であり、甲種、乙種、丙種の3つの種類があります。この記事では、最も高度な資格である「危険物取扱者試験 甲種」に焦点を当て、その取得方法について詳しく解説します。
危険物取扱者試験とは?
危険物取扱者試験は、危険物を安全に取り扱うための知識と技術を証明する国家資格試験です。試験は一般財団法人消防試験研究センターが実施しており、全国の試験会場で受験できます。
試験には以下の3種類があります:
- 甲種:すべての種類の危険物を取り扱うことができます。
- 乙種:指定された類の危険物を取り扱うことができます(第1類から第6類まで)。
- 丙種:第4類の特定の危険物(ガソリン、灯油、軽油、重油など)を取り扱うことができます。
危険物取扱者試験 甲種とは?
危険物取扱者試験 甲種は、危険物取扱者資格の中で最も難易度が高く、すべての種類の危険物を取り扱うことができる資格です。甲種資格を取得すると、以下のような特典があります。
- 全種類の危険物を取り扱える:第1類から第6類までのすべての危険物を取り扱うことができます。
- 保安監督者になれる:6ヶ月以上の実務経験を積むことで、危険物保安監督者としての役割を果たすことができます。
- 無資格者の立会いが可能:甲種資格を持つ者が立ち会えば、無資格者でも危険物の取り扱いや点検が可能です。
よくある質問として
- Q甲種危険物取扱者免状と乙種免状の全類を取得した場合の資格の違いは?
- A
乙種全類の免状取得者は、甲種免状取得者と同様に、すべての危険物を取り扱うことができますが、危険物保安監督者の資格要件に違いがあり、乙種の全類を取得しても甲種に切り替わることはなく、甲種は別に受験しないと免状取得できません。
甲種の重要性とメリット
危険物取扱者甲種の資格を取得すると、全ての危険物(第1類から第6類まで)の取扱いや保安監督者としての役割も果たせます。危険物の取り扱いに関する最高峰の資格であり、幅広い業務をこなすことができるため、乙種や丙種の資格よりも大きなメリットがあり、特に化学工業や製造業、消防業界などでのキャリアアップに非常に有利です。
試験の概要
試験の構成
危険物取扱者試験は実技はなく、危険物取扱者試験は全て筆記試験のみで構成され、甲種と乙種は5つの選択肢から選ぶマークシート形式です。甲種の受験科目は「危険物に関する法令」「物理学及び化学」「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」の3種類で、問題数はそれぞれ15問・10問・20問となっています。
乙種では、他の類の乙種試験に合格や火薬類免状を持っている場合など条件さえ満たせば試験科目の一部が免除されますが、甲種危険物取扱者の試験では、受験科目の免除が一切認められません。そのため乙種に合格している人もあらためて全科目を受ける必要があり、非常に難易度が高いです。
受験資格
危険物取扱者試験 甲種の受験には、一定の資格が必要で下記の表の通りです。
対象者 | 詳細 | 願書資格欄記入略称 | 証明書類 |
〔1〕大学等で化学に関する学科等を修めて卒業した者 | 大学、短期大学、高等専門学校、専修学校、高等学校の専攻科、中等教育学校の専攻科、防衛大学校、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校、外国の大学等 | 大学等卒 | 卒業証明書または卒業証書(学科等の名称が明記されているもの) ※外国語の場合は日本語訳を添付 |
〔2〕大学等で化学に関する授業科目を15単位以上修得した者 | 大学、短期大学、高等専門学校(専門科目に限る)、大学院、専修学校、防衛大学校、防衛医科大学校、水産大学校、海上保安大学校、気象大学校、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校、外国の大学等 | 15単位 | 単位修得証明書または成績証明書(修得単位が明記されているもの) ※外国語の場合は日本語訳を添付 |
〔3-1〕乙種危険物取扱者免状を有し、実務経験2年以上の者 | 乙種危険物取扱者免状取得後、危険物製造所等での危険物取扱い実務経験が2年以上 | 実務2年 | 乙種危険物取扱者免状および乙種危険物取扱実務経験証明書 |
〔3-2〕乙種危険物取扱者免状を有する者 | 4種類以上の乙種危険物取扱者免状を取得(第1類または第6類、第2類または第4類、第3類、第5類) | 4種類 | 乙種危険物取扱者免状 |
〔4〕修士・博士の学位を有する者 | 化学に関する事項を専攻した修士、博士の学位を授与された者(外国の同学位を含む) | 学位 | 学位記等(専攻等の名称が明記されているもの) ※外国語の場合は日本語訳を添付 |
試験科目と内容
- 危険物に関する法令: 法律や規制についての問題。
- 物理および化学: 危険物の物理的、化学的性質に関する問題。
- 危険物の性質およびその消火方法: 危険物の特徴と、火災時の消火方法に関する問題。
試験の難易度
甲種危険物取扱者試験は、危険物取扱者試験の中でも最も難易度が高いです。これは、試験範囲が広く、特に化学や物理の知識が求められるためです。甲種は、乙種の各類(第1類〜第6類)に加えて、危険物の法令、物理化学、性質・消火方法の全ての内容を深く理解している必要があります。そのため、理系の知識が強い方でも、しっかりとした準備が必要です。
合格率
甲種危険物取扱者試験の合格率は、例年約30~40%前後で推移しています。他の種別(乙種、丙種)と比較すると合格率が低く、試験の難易度は高いです。合格率が低いのは、広範な試験範囲や深い専門知識の必要性に起因します。十分な対策を立て、計画的に学習を進めることが重要です。
合格基準
甲種試験の合格基準は各科目ごとに60%以上の得点が必要で、科目合格はありません。そのため、他の科目で高得点を取っても不合格となりますので、バランスの取れた学習が求められます。
勉強法
計画の立て方
甲種試験は「危険物に関する法令」「物理学及び化学」「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」に分かれており、それぞれの科目で60%以上の得点が求められるため、バランス良く学習する必要があります。そのための勉強には長期計画と短期計画を立て、体系的に勉強を進めることが重要です。
オーソドックスなスタイルは「テキストを読む(インプット)→問題解答(アウトプット)→間違えた部分を再確認」の反復ですが、問題集は最低でも3回は繰り返すことで記憶を定着させます。
長期計画と短期計画
- 長期計画: 3〜6ヶ月を試験までの準備期間として、全科目をバランスよく学習していきます。まず基本的なテキストと問題集を通読し、全体の概要を把握しましょう。その後、各科目にかける時間を自分の理解度に合わせて決めます。例えば、化学の基礎知識がある人は、法令科目から重点的に取り組むことをおすすめします。法令と危険物の性質は覚える内容が多く、理解よりも暗記が重要なため、早い段階で取り掛かることが重要です。
- 短期計画: 週ごと、日ごとの勉強内容を具体的に決めます。試験直前の1〜2ヶ月間は、これまで学習してきた内容を復習し、問題集や模擬試験を重点的に行います。過去問を通じて、自分の弱点を把握し、その部分を集中的に復習することで、効率的な学習が可能になります
目標設定
モチベーションを維持するためには具体的な目標設定が必要です。「SMART目標」(具体的、測定可能、達成可能、現実的、期限付き)を活用することで、目標を具体化しやすくなります。
具体的:試験までにどの科目をどの程度学習するかを具体的に定める。
測定可能:週に解く問題数や復習の進度を数値化する。
達成可能:自分のライフスタイルに合わせ、無理のない計画を作成する。
現実的:勉強に使える時間を現実的に見積もり、目標を立てる。
期限付き:過去問の1周目は1か月、2週目は2週間、試験の1週間前には模擬試験を実施するなど、期限を明確にする。
効率的な勉強法
過去問の反復練習以外に効率的な勉強法を紹介します。
通信教育講座の活用
独学ではモチベーションの維持や、試験までの期間で効率よく勉強できない場合もあります。そんなときには通信講座を活用し、短期間で効率よく資格を取得するようにしましょう。危険物取扱者甲種のおすすめはヒューマンアカデミーです。
ゴロ合わせで記憶
危険物取扱者の試験範囲には多くの化学物質が含まれており、暗記が必要です。そこで、ゴロ合わせや語呂を利用して、複雑な内容を覚えることが効果的です。例えば、燃焼に関する理論や物質の特性を語呂にして覚えると、記憶が定着しやすくなります。また、繰り返し復習することで長期的に知識を定着させます。
理解と暗記を分ける
暗記が必要な部分と、理解が必要な部分を明確に区別することで、学習を効率化できます。たとえば、危険物の分類や法令に関する知識は暗記がメインですが、物理学や化学は理解を深めなければならない分野です。まず、理論や公式の理解を深めた上で、問題を解くことで応用力を高めます。逆に暗記科目は、短時間に繰り返して記憶を定着させます。
模擬試験の活用
本番と同じ形式で模擬試験を実施することで、試験当日のシミュレーションが可能です。試験の形式や出題傾向に慣れ、時間配分の練習もできるため、一度受けることをおすすめします。過去問以外で解けなかった問題をしっかり復習し、弱点を把握することが大切です。
推奨テキスト
まずは試験対策として定評のいわゆる「工藤本」を紹介します。本書は出題頻度の低い内容を省略し、共通点をまとめて覚える方法やゴロ合わせを活用することで、効率的に学習できます。試験に頻出の問題に重点を置き、最新の傾向に対応した実戦的な問題を多数収録されているため、必要な知識を効率よく習得し、実際の試験でも十分に対応できる力を身につけられる内容です。この1冊で、合格に向けた学習を効果的に進めることができます。
- 書籍名 : わかりやすい!甲種危険物取扱者試験
- 発行元 : 弘文社
- 本体価格 : 3,080円(税込)
過去問は公表されず問題用紙も持ち帰ることはできませんので、過去問対策として必携の本です。本書は過去8年間の749問を収録し、試験でよく出題される問題に的を絞って効率的に学習できるよう設計されています。過去問題を解いた後に「なぜそうなるのか?」という疑問にしっかり答える解説付きで、自然と知識が定着します。さらに、テキストで覚えるべきポイントを簡潔にまとめているので、問題を解きながら何度も復習でき、試験対策に役立つ力が身につきます。この1冊で、合格にグッと近づけます。
- 書籍名 : 甲種危険物取扱者試験 令和6年版
- 発行元 : 公論出版
- 本体価格 : 2,970円(税込)
試験当日の準備
必要な持ち物
写真を貼付した受験票、鉛筆(HBまたはB)、消しゴムを準備します。
試験会場では、参考書は当然ながら電卓・定規類及びスマートフォン・携帯電話その他の電子機器は使用禁止です。これらの使用や電子機器から音が鳴ると不正行為とみなされ、受験は直ちに中止・退出となり、試験は失格になりますのでくれぐれもご注意ください。実際にポケットに入れたスマホが鳴り、退出させられていた人がいました。
当日のスケジュール
受付開始:試験会場には余裕を持って到着するようにします。通常、試験開始の30分前から受付が始まります。遅刻は厳しく取り扱われるため、公共交通機関の遅延などに備え、早めに行動しましょう。
試験開始:試験時間は150分(2時間半)で、5択のマークシート式が採用されています。科目ごとに問題が配布され、時間内に解答を終える必要があります。
休憩時間:試験中に途中休憩は基本的にありません。トイレは試験前に済ませておきましょう。途中退室は、試験開始から35分間はできませんが、それ以降は試験官の指示により途中退室が可能となります。
終了後:試験が終了したら、監督官の指示に従って退室します。問題用紙は持ち帰れず、解答用紙とともに提出します。
合格後の手続き
資格の登録方法
危険物取扱者試験に合格後、免状の交付申請の際には、免状交付申請書、試験結果通知書、免状送付用の切手を貼った封筒を郵送します。すでに交付を受けている危険物取扱者免状があれば、こちらも必要です。交付には1種類につき、2,900円の手数料がかかります。
危険物取扱者甲種&乙種コンプリート
取得後のキャリアパス
危険物取扱者甲種の資格取得後には、さまざまなキャリアパスが広がります。以下にその主な進路や選択肢について詳しく説明します。
1. 化学・製造業界でのキャリアアップ
甲種危険物取扱者資格を取得すると、化学工場や製造業での危険物取り扱い業務に従事することができ、昇進や専門職へのキャリアアップに繋がります。例えば、化学プラントでの設備管理や製造工程の安全管理者としての役割を担うことが多くなります。特に、大規模な工場では甲種資格保有者は貴重な存在とされるため、管理職や安全管理部門への昇進が期待できます。
2. 物流業界での活躍
物流や運送業界でも、危険物を取り扱う場合には資格保有者が必要です。例えば、石油やガス、化学製品の輸送管理や保管業務を担当するポジションがあり、特に危険物の輸送を行う企業では、甲種資格保持者がリーダーシップを発揮する場面が多いです。また、免許が必要な特殊車両の運転に携わることも可能です。
3. 化粧品や食品業界での活躍
化粧品や食品製造においても、危険物取扱者が優遇されることがあります。特に石油系の成分を含む製品を扱う場面では、化学知識を持つ甲種資格者が重宝されます。女性が多く活躍する化粧品業界でも、安全管理や製造工程のチェック役としてのキャリアを築くことが可能です。
4. 公共サービス・消防・防災分野
甲種資格者は、地方自治体の消防や防災部門でも活躍できます。危険物の取り扱いや管理に関する知識は、防災活動において非常に重要で、地域社会の安全を守る役割を担うこともあります。また、消防設備士や防火管理者といった関連資格を取得し、さらにキャリアを拡大することも可能です。
5. シニア世代のセカンドキャリア
甲種危険物取扱者は体力や年齢に関係なく活躍できるため、特にシニア世代にとって有効な資格です。再雇用や転職を検討している人々にとっても、安定した職を得るための道として人気があります。企業によっては年齢制限が緩やかなところも多く、定年後の再就職にも向いています。
6. 収入面での安定
危険物取扱者の資格を持つことで、給与水準が上がることが期待できます。特に甲種資格を持つと、企業内での評価が高まり、年収500〜600万円の安定した収入を得ることができるとされています。これは、管理職や技術職に昇進することでさらなるキャリアアップを見込めるからです。
資格を取得することで、危険物を扱うさまざまな業界でキャリアの選択肢が広がり、昇進や安定した収入が期待できます。
まとめ
取得までの振り返り
甲種危険物取扱者試験の勉強には多くの時間と努力が必要ですが、それだけの価値がある資格です。甲種危険物取扱者資格を取得するまでの過程は、特に化学に関する知識を必要とするため、法令や性質・消火に関する暗記が試験の重要なポイントとなります。効率的な勉強法として、過去問の活用や模擬試験を受けること、そして学習計画をしっかりと立てることが重要です。
今後の展望
この資格は、全ての危険物を取り扱える唯一の資格であり、特に危険物保安監督者としての役職に就くことができる点が大きなメリットです。また、製造業やエネルギー関連業界、さらには自治体の危険物管理部門など、幅広い業界で求められる存在になります。取得後は、業務の安全管理やリスクアセスメントに関わる責任の重い役割を担うことになり、より高いレベルの知識や実務経験が求められます。資格の更新やさらなる専門知識の習得を通じて、キャリアをさらに発展させることができます。
また、取得後も業務経験を積み、知識を深めることで、さらに高い役職や専門分野での活躍が期待できます。特に化学系の専門知識を持つことで、他の技術資格との組み合わせができ、さらなるキャリアアップにつながります。
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